
化学兵器禁止機関(OPCW)の新事務局長に、スイスの外交官サブリナ・ダラフィオール氏が今年7月に就任する。1997年の創設以来、同機関で女性が事務局長を務めるのは初めて。
OPCWは、化学兵器禁止条約(CWC)の履行を監視するため1997年にオランダ・ハーグに設立された。現在、条約締約国は193か国にのぼり、未加盟は北朝鮮、エジプト、南スーダンの3か国のみである。イスラエルは署名しているが批准していない。
同機関は裁判機関や検察機関ではなく、司法判断を下す権限はない。調査結果は必要に応じて国際連合安全保障理事会などに報告され、外交措置や国際的対応の検討に活用される。化学兵器廃棄施設の24時間査察や使用疑惑の調査、加盟国への査察団や専門家の派遣等の活動が評価され、2013年にはノーベル平和賞を受賞。だが一部の国が禁止されている化学物質を国外の敵対勢力だけでなく自国民に対しても使用しているとの疑惑は後を絶たない。
化学兵器の使用を禁じる規範は、この十数年で相対的に弱まっているとの指摘もある。各主体がどこまでが国際的批判を招く一線かを見極めながら,、段階的なアプローチを取るようになったため。さらに、高度なコンピューティング技術やドローン技術の進展、軍民両用の化学物質であるデュアルユース・ケミカルの普及も新たなリスクを生み出している。
近年、シリアやウクライナなどでは毒性化学物質の使用疑惑が相次ぎ、OPCWの役割はこれまで以上に重要になっている。国際機関では依然として女性トップは少なく、とりわけ軍縮や安全保障分野ではまだ珍しい。化学兵器の廃絶を担うOPCWで初の女性事務局長が誕生することは象徴的な意味を持つ。
ダラフィオール氏は、国家やテロ組織がドローンや人工知能(AI)などの新技術を利用して化学兵器を拡散させるリスクへの対応という課題に直面する。さらに、米国、中国、ロシアが国際的影響力を競うなかで、第二次世界大戦後に国家間の対立を調整してきた国際機関への支持も弱まりつつある。
同氏は任命の挨拶で「化学兵器に関する規範の遵守を最優先課題とする」と表明。また、信頼性のあるすべての申し立てを調査することが、規範の「長期的な持続可能性」を確保するうえで不可欠だと強調した。
化学兵器の完全な廃絶という目標は、なお達成されていない。OPCWの新たな指導部が、この規範をどこまで再強化できるのかが今後の焦点となる。