
クルーズ船で発生したハンタウイルス感染や、コンゴ民主共和国で拡大するエボラ出血熱を受け、世界保健機関(WHO)への注目が再び高まっている。
コロナ禍では、WHOが2020年に「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言し、その後COVID-19をパンデミックと認定したことは記憶に新しい。国際的な公衆衛生上の緊急事態を宣言できるのはWHOのみであり、同機関は現在も国際保健分野の中心的存在である。
その一方で、WHOは近年、深刻な課題に直面している。最大の課題は資金調達だ。WHOの予算は任意拠出金への依存度が高く、各国の政治情勢や外交方針の変化に大きく左右されやすい。歴史的に最大の拠出国だった米国は2025年、正式な脱退手続きを開始した。これによりWHOは深刻な財政圧力に直面し、予算と人員の大幅な削減を余儀なくされている。
実際にWHOは、2026〜27年の2年間予算を21%削減した。2026年には人員も最大25%削減される見通し。この財政危機の中でWHOは、国際的な保健基準やガイドライン策定などの規範機能を重視するのか、それとも感染症対応や保健支援など現場機能を維持するのかという、自らの役割の再定義を迫られている。
WHO事務局長には、約200の加盟国の利害を調整しながら、科学的中立性と信頼性を維持し、競争が激化する国際的な資金調達環境の中で財源を確保することが求められる。さらに、多国間主義が圧力にさらされる中で、WHOの国際的役割をどのように維持・強化していくかという難しい課題も背負っている。
こうした中、テドロス・アダノム・ゲブレイェソス事務局長の任期が2027年8月に満了するため、次期事務局長選出に向けた手続きが進められている。今年4月から加盟国による候補者推薦が開始され、選挙を経て、2027年5月の世界保健総会で新事務局長が任命される予定。
多国間主義が揺らぐ中、WHOにはこれまで以上に強いリーダーシップと明確な戦略が求められている。次期事務局長の選出は、WHOの将来だけでなく、今後のグローバルヘルス体制の方向性を占う重要な節目となりそうだ。